草日誌

草日誌

2011年5月1日

物語作家・前川秀樹の誕生です
『Zuhre』

茨城県土浦市にある前川秀樹さんのアトリエには、
縁あってさまざまな材が運ばれてきます。
池の畔に立っていた椎の木、
弁天さまの祠に寄り添っていた公孫樹、
竜巻で根元から千切られた欅、
長く人の口をよろこばせてきた栗の木など。

時に捻れ、割れ、虫に喰われたあとも生々しく彫刻の材としてはけっして扱いやすくないそれらの雑木から、前川さんは二百体以上の像を彫りだしてきました。

それらは人と動物との境を飛び越え、風や雨、火や水に姿を与えた神話の時間が流れる造形……前川秀樹が5年ほど前から追いかけてきた「像刻」と呼ばれる木彫群です。→ click !

   *

前川さんが作る像刻には、
これまでも特徴的な作品名が与えられてきました。
「ソニドリ」「告げ鳥」「雪客(せっかく)」
「白南風(しろたえ)」「笑う山稜」「雨師」
「ふねのないみなと」「横たわる月」「海天の塔」
「歌われなかった鎮魂歌」……
特徴的な像刻の姿とその作品名が響きあい、小さな像刻はその背後に広がる豊かな物語性を予感させました。

そして、
それらの像刻たちが
自らの裡に秘めた物語をしずかに語りはじめました。

この物語集「Zuhre」は、
木々が
鳥や風に聞いた、
水や土から引き取った物語を、
前川さん自身が言葉によって削り出した、
文章による初めての作品集です。

   *

「自分には子どもがいないけれど、たとえば像刻をつくる傍らに子どもがいたとしたら、『ねえねえ、何作ってるの?』と訊いてくると思う。いま生まれつつある像刻がどこからやってきた何なのか、実は僕自身も知らない。でも、子どもに訊かれたその『何か』が『どこから来たのか』を、自分も手を動かしながら、きっとぽつりぽつりと語ると思う。語りながら、その世界が見えてくると思う。」

   *

この物語集は、そうやって生まれたささやかな本です。
木々の中に秘められた時間と前川さん自身の遠い記憶が共鳴して生まれた物語を、ぜひ体験してください。

*先行予約300部には、前川秀樹オリジナルエッチング1葉がつきます。
購入はこちらから ← クリック

Facebook Twitter google+ はてなブックマーク LINE
次の記事 →「生きる」

関連記事