草日誌

草日誌

2022年8月3日

本当の最初の出来事

1枚のファックスがあって
喫茶店のカウンターでそれを見せられて泣いてしまった
なんだか嬉しかったからだ
必要としてくれる人たちがそこにいて
大きな声で名前を呼んでくれて、知らない土地に誘ってくれた
それで
言葉を新しく作って
歌も作って
散髪もして
意気揚々と出かけた
/永井宏

これは「本当の最初の出来事」の冒頭の部分です。
『伯父さんはマーガレットの花びらをプロペラにして空を飛んだ』という長いタイトルの、とても愛らしい本に収められています。どこかで見かけたら、きっと手に取ってみてください。
この本は大阪・星が丘にある「星ヶ丘洋裁学校」の再生にまつわる奇跡のような物語が、妖精の足跡のような可憐な文章で綴られています。
読むたびに、永井さんと星ヶ丘に集う人たちとが作った夢のような時間(まさにドリームタイム)に、嫉妬してしまうほどです。
でも、永井さんが教えてくれるのは、ここであった奇跡は特別なことじゃないんだ、ということ。
奇跡は、その気持ちさえあれば僕たちの周りにも起こせるし、たった今も身の回りに起きているということ。
大切なのはそれを見つめる視線を、感じる感覚を失わないということ。
それが「毎日の暮らしが永遠につながる」ということ。

僕が毎朝永井さんの文章を書きうつすようになったのは、2011年4月に永井さんが亡くなって少し経ってからでした。永井さんが感じていたことを少しでも、自分で感じてみたいと思ったから。
手元にある永井さんの本をランダムに選んで、めくったページに出ている言葉を書きうつしています。不思議なことですが、一度ならず読んでいるはずの文章が、書きうつすことでまた違った景色を見せてくれます。それはまるで写経のような行為かもしれません。写経ではなく、もっともっとたくさん、永井さんと話せば良かった。駄洒落ばかり言うことを嫌がらない寛容さを持ちたかった。永井さんがうたう歌を、くすぐったがらずに一緒に歌えばよかった。

Facebook Twitter google+ はてなブックマーク LINE
← 前の記事永井宏さんと
『雲ができるまで』のこと
次の記事 →柳亭市若さん
八月の落語会

関連記事