草日誌

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2025年5月13日

かときちどんぐりちゃん と
 『とつこ』のこと

もう一度 会いたい
あなたに
あの日の わたしたちに

一緒に過ごした思い出、伝えられなかった言葉、大切な人との別れ……こころに空いた隙間を温める、陽だまりのような六つの物語。

2025年6月6日、SNSを主な舞台として作品を発表している盛岡在住の〈かときちどんぐりちゃん〉のはじめての作品集『とつこ』が発売になります。
これまで発表されている作品は、ひとりの作者が描いたとは思えないほど多種多様ですが、この作品集には地元岩手県の各地を舞台に描かれた物語をセレクトし、「とつこ」「カメヤ」「ムシデン」「オガミの三姉妹」「ほっつ」「媼と鴉」の6編を収録しました。
それぞれの場所で、それぞれの境遇を生きる人たちの姿と、彼らに訪れた小さな奇跡。
ぜひお読みください。

丘の上の保育園へのクネクネ道をひとりのおばあさんがのぼってゆく。
ばばちゃん先生と呼ばれる彼女は、元園長。引退した職場に日々現れては、昼寝する子どもたちにまぎれて眠る。そして、涙を流して目を覚ます。ばばちゃん先生のこころの〈とつこ〉をほどくのは、誰?

ある老人ホームに〈カメヤ〉と呼ばれる老人がいる。
もうほとんど話すこともなく、甲斐甲斐しい妻の看病もむなしく、眠り続けるカメヤ老人。やがて世間に疫病の嵐が吹きあれる頃、面会の出来ない妻がスタッフに託した〈あること〉とは。

幼い頃、家には住み込みのお手伝いさんがいた。名前は、とどこ。
働きものの彼女は家事を何でもこなし、素朴な野遊びをたくさん教えてくれた。とどこと過ごす夢のような日々。しかしそれは、思いもしない形で終わりを迎える。もう一度、とどこに会いたい……。

魔女の三姉妹。命のあるモノを扱う魔法を使う赤い魔女、亡者にまつわる魔法を使う黒い魔女、時の魔法を使う白い魔女。そんな彼女たちにも〈老い〉は忍びよる。体調のすぐれない末妹のため、普段は離れて暮らす三人が一堂に会することになりました。
(本書のための描き下ろし)

震災で津波の被害を受けた町に住む勇凜。ある夜、携帯が鳴る。幼なじみの冬馬から電話だ。面倒くさそうな予感しかない。復興に揺れる町で、人間関係に縛られ、助けられ、絡み合う縁の中に生きる人々と、ある夜におきた不思議な出来事。

山深い集落に志願して赴任した小学校教師ハルさんは、牛小屋に住み着いたウタさんとあわ坊母子を引き取って一緒に暮らしはじめた。ある日、集落は山火事に巻き込まれ……山村のシスターフッドの物語。

はじめまして、かときちどんぐりちゃんと申します。
私は普段は音楽療法士として岩手県内各地の病院や福祉施設、保育園などで、音楽を通してみなさんのからだやこころのサポートをする活動をしています。この作品集に収めた漫画作品は仕事に出かける前、毎朝起きたあとの15分でその時思いついたことをスマートフォンで描きSNSに発表してきたものです。
(「あとがき」より)

〈かときちどんぐりちゃん〉の作品に初めて出会ったのは、たしか2020年の夏頃。
どなたかのオススメでSNSに流れてきた「ほっつ」と「ムシデン」を最初に読みました。
絵柄のシンプルさと心地よい展開のリズム、その流れに乗って読み進めると、最後は不思議な読後感に包まれる作品でしたが、しかしSNSの常、情報はあっという間に流れて行き、かときちどんぐりちゃんという名前とその読後感だけが残りました。
その後どうしても気になって検索してみると、膨大な作品がどんどんみつかり、すっかり引き込まれます。最初はひとりのファンとして読んでいましたが、いつしか「この方の作品をまとめてみたい」という編集者の宿痾がむくむくと疼きだし、思い切ってご連絡を差し上げたのが2023年1月。
そのすぐあとに別件での青森への取材が決まり、東京への帰途、盛岡に立ち寄ってはじめてお目にかかりました。
初対面ではありましたが、同世代で高校時代を同じ街で過ごしていたこと、愛犬のお名前が「たんたん」ちゃんなこと、そのほかも偶然とは思えない共通点もいろいろあり、なんだかずっと前から知っている人と再会したような心持ちがしたこと(そしてとても楽しかったこと、お酒が進んだこと)を覚えています。

かときちさんは〈音楽療法士〉として岩手県の各地をめぐり、その土地の歴史や人々の暮らし、営みに丹念に耳を傾けてきました。この本に収録されている作品は、そのようにしてかときちさんのからだに降り積もったたくさんの〈声〉が撚りあわさって物語として生まれでたものです。
作品をお読みいただければご理解いただけると思いますが、かときちさんの作品には(そして日々のSNSでの発言にも、直接お目にかかってのおしゃべりにも)、その底にいつも小さきものへの共感と、彼らのしあわせを願う気持ちが流れています。
私たち信陽堂も、まさにそこに共鳴しこの本を作りました。
かときちどんぐりちゃんは、まだまだ魅力的な作品をたくさん描かれています。そしてこれからも描き続けることでしょう。
この『とつこ』だけでなく、彼の作品をまたまとめることが出来れば、と思っています。どうぞ応援してください。

【著者紹介】
かときちどんぐりちゃん◎本名、智田邦徳。1967年生まれ、岩手県盛岡市在住。日本大学藝術学部音楽学科卒業後、地元に戻り音楽療法士として活動。
2011年東日本大震災発生後は被災地となった三陸沿岸をまわり、サロンを通じた被災者支援を現在も継続している。
岩手県内各地をめぐる中で出会った風景や人との対話から生まれる作品も多く、日々SNSで作品を発表している。
著書に『推し嫁ルンバ』(KADOKAWA)、共著に『音楽療法・レッスン・授業のためのセッション ネタ帳~職人たちのおくりもの』『心ふれあう セッション ネタ帳 For Kids』(ともに音楽之友社)など。
音楽療法士としての活動はこちらを→ 東北音楽療法推進プロジェクト えころん
これまでの作品はこちらに→ PIXIV FANBOX

『とつこ』
かときちどんぐりちゃん
A5変形判 並製(210×120ミリ)本文2色刷 208ページ

協力 澤瀬康博
装幀 横須賀拓
校正 猪熊良子
編集・構成 丹治史彦、井上美佳(信陽堂編集室)

印刷 モリモト印刷
活版印刷 日光堂
製本 加藤製本
ISBN978-4-910387-11-6 C0095

価格=1,980円(税込)
送料=250円

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