草日誌

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2023年10月7日

『夏みかんの午後』のこと

エリはいろいろなものを切り捨てて、
葉山でシンプルな暮らしを始めた。海辺での暮らしは、
必要なものと必要でないものをはっきりと分けてくれる。

美術作家であり、エッセイや詩を数多く残した永井宏さんは、数編の愛すべき小説も残していました。本書は2001年に永井さん自らが運営していたマイクロプレス「サンライト・ラボ」から出版されて以来、静かに読まれ続けてきた作品の復刊です。

主人公は何かが始まる予感を胸に東京を離れ、海辺の町・葉山で暮らしはじめたフードスタイリスト、志田エリ31歳。大都市と郊外、何かに追いかけられるような時間と、手を動かし、ものを作るささやかな生活……自分の価値観とともに海辺に暮らす人々と出会い、少しずつ解放され自分の時間を生きはじめた女性の姿を描く、すがすがしい短編。貸しボート番のアルバイトを始めたフリーライターの淡い恋を描く「砂浜とボート」を併録。20年以上の時を経て、なおこころに響く海辺のフォークロアです。

たわわに実をつけた大きな夏みかんの木のある庭で、
エリは雲ひとつない青空を見上げ大きく息を吸い込んだ。
この匂い、そして体がふうっと風と同化するようなすがすがしさ。
海辺に引っ越してきて毎日毎日、自分が生きているということを
納得させてくれた空気感は今日も一緒だった。
そしてこれからもそんな空気に包まれた生活を続けながら、
その心地好さを伝えていくのが自分のこれからの仕事なんだと思った。


 (写真:大社優子)

永井宏さんは1951年東京生まれ。70年なかごろより写真、ドローイングなどによる作品を発表する一方で、各地でポエトリーリーディングやワークショップを開催しました。
「誰にでも表現はできる」とたくさんの人を励まし続け、その考えはクウネル、アノニマ・スタジオなど2000年代に生まれた〈暮らし系〉のメディアの担い手に大きな影響を与えました。
2011年4月12日に永眠、59歳でした。
巻末には20代から永井さんのワークショップに参加し、晩年まで親しく時間を過ごしていた小栗誠史さんにエッセイ「永井さんは文化の入り口」を寄稿いただきました。


表紙は、白い紙にオフセットで写真を印刷、その周辺には淡く青を混ぜたマットニスを敷きました。印刷というよりも、染めるイメージです。
その上に文字と社名とロゴ、裏表紙のマークを活版で印刷しています。
オフセット印刷は藤原印刷さん、活版は日光堂さん、製本は加藤製本のお仕事です。

『夏みかんの午後』
永井宏/文・アートワーク
新書変形判上製(177ミリ*117ミリ) 176ページ

協力 南里惠子、小栗誠史
校正 猪熊良子
デザイン協力 F/style(五十嵐恵美・星野若菜)
印刷進行 藤原章次(藤原印刷)
編集+造本 信陽堂編集室(丹治史彦 井上美佳)
印刷 藤原印刷
表紙 日光堂(活版印刷)
製本 加藤製本
ISBN978-4-910387-06-2 C0095

価格=2,200円(税込)
送料=250円

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