草日誌

草日誌

2023年11月30日

ふるさかはるかさん
『ことづての声/ソマの舟』
のこと

冬の厳しい北国で、山と直接関わる手仕事の人びとは、
動植物からどんなサインを読み取り、どう自然とやりとりするのか。

南津軽で始まった山の手仕事の取材が、6年の歳月を経て本になった。山の命と直接関わるマタギ(猟師)やソマ(木こり)や漆掻き(樹液を採集する人)は、冬の厳しい北国で動植物からどんなサインを読み取り、どう自然とやりとりするのか。山のことばに導かれ、取材地をたずね歩いて記録した。 そうたずね歩くうち、藍と漆とヒバと土とが私の手元に託された。山のことばと素材に呼応し、私も彼らの手振りをまねび木版画を作りたい。ヒバの香を嗅ぎ、藍の葉が青に変わるのを見、漆にかぶれるのを肌で覚えながら、山の命と関わる手段を引き寄せるために。(ふるさかはるか)

ふるさかはるかさんは、2002年よりノルウェーなどを訪れ、その地の暮らしや風土から作品を制作してきたアーティストです。2017年からは津軽・南部地方で山の命と直接関わるマタギ[猟師]やソマ[木こり]や漆掻き[樹液を採集する人]たちに出会い、彼ら動植物からどんなサインを読み取り、どう自然とやりとりするのかを取材してきました。

作家としては木版画を中心に表現していますが、自ら掘り出した土を精製して、また藍を育てて色素を抽出する技法を編み出して絵の具を作ってきました。版木は切り出された枝の形を活かし、時に割りながら形を変えて幾通りもの作品を生みだします。撮影に使用する機材はピンホールカメラ自作しています。
そのように自らの表現に「手の仕事」を織り込み取材する人々との対称性を模索しながら表現を続けています。

本書は山のことばに導かれ、手仕事に深く触れ、自らも土を拾い藍を育てて絵の具を作り生みだされた木版画、ドローイング、ピンホール写真、そしてことばの記録をまとめた作品集です。

一冊の本に『ことづての声』と『ソマの舟』のふたつの世界が綴じられています。

右開きの『ことづての声』には、膨大なインタビューとピンホールカメラなどフィルムで撮影された写真、取材に触発されて描かれたドローイングを収録。ふるさかさんが藍の絵の具を作る過程を、人類学研究者の登久希子さんが寄稿。
左開きの『ソマの舟』には、取材から作家のイマジネーションを広げて作り出された版画作品とエッセイを収録。ふるさかさんの創作姿勢について、管啓次郎氏が寄稿しています。
1部ずつに取材地の漆の木と樹液を使って手刷りした「漆木版画」付。栞には、1960〜70年代に岩木山神社の「お山参詣」で奏でられる「登山囃子」と解説音声とが録音された貴重な音源を再生するQRコードもつけました。(演奏・解説:山中繁敏さん)

熊どこにいる? 春の熊どこに来る? 秋の熊はどこに行く? 山見ればわかるのさ。まず秋、山のブナの実が採れる秋。熊は山にいて木の実いっぱい食うんだけど、一番好きなのがブナの実。あのちっちゃいブナの実が脂肪一番多いから。
山がみんな教えてくれる。簡単。じいちゃんたちが「山ってこうなんだよ」、「山ばかにすれば怪我すんのよ」って言ってた、その一言なのさ。山入ってじいちゃんばあちゃん達と話ししてても、マタギの方でも、そういうの全部教えてくれるのさ、人が自然に対してどう向かえばいいかっつうのを。敵対視しない向かい方をちゃんと考えれば、自然て何も怖いもんでないし、優しくしてくれるんだよ。欲出せばダメね。欲出せば自然に負けるから。
(大鰐町 マタギ 山中泰彦さん)

葉っぱも見てね。
目安は木が教えてくれるんですよ。六月上旬の今の時期って一本の木の葉の色ってみんなグリーンでしょ。そのうちグリーンの中に、たまに黄色い葉っぱがポツって出てくるんです。そういうのが出てくると、だんだん傷付けていいんだなっていう合図。それを見ながら。木と相談しながら漆搔かないと。
「葉っぱ見ろ」って言われます。師匠にも、「葉っぱ見ろ、下ばっか見てるな」って教わりました。(浄法寺町 漆掻き・塗師 鈴木健司さん)

自分らは使い手と作り手が向かい合っているような状態でもの作りしているから、いろんなことが分かってくるわけね。このカマだってさ、こうやって持ってみたらしっくりくる。そうやって作ってきたから。やっぱり手間暇かければかけただけ利益が薄くなるし、たくさん作れないし。でもやっぱり、十年も使って「またこったの作ってけろ」って持ってこられれば、こんなに長く使ってもらったのかと思えば、自分もやっぱり嬉しいっていうところもありますしね。(田子町 鍛冶 中畑文利さん)

ふるさかはるか(美術家/木版画家)
1976年大阪生まれ。1999年武蔵野美術大学油絵学科卒業後、木版画ワークショップのアシスタントを経て2002年より活動を開始。土と藍から自作した絵具と、版木の持つ自然な色・形に着目した木版画を作る。ノルウェーなど北国での滞在制作・発表のかたわら各地の山の手仕事を訪ね、近年では自然と共に生きる人びとのことばや手仕事をテーマにした 作品に取り組んでいる。展覧会《トナカイ山のドゥオッジ》では、北欧の先住民族サーミの人びとを取材した木版画シリーズを発表。2017年国際芸術センター青森での展覧会《土のことづて》を機に青森での取材を重ねてきた。2010年「木版画アトリエ空中山荘」を立ち上げ、美術館等でのワークショップを通して手仕事と絵画の要素をあわせ持つ木版画の魅力を伝える取り組みも行っている。
harukafurusaka.net | kucyusansou.com

『ことづての声/ソマの舟』 
ふるさかはるか/木版画、ドローイング、写真、文
寄稿/管啓次郎氏、登久希子氏
菊判変形並製(210ミリ*180ミリ) 224ページ
限定600部

協力(順不同)山中泰彦 鈴木健司 中畑文利 金子由紀子 今年人 外崎繁 外崎幸憲 中村弥生 上條泰山 草木貴照 麥生田兵吾 中川浩佑 Gallery PARC

デザイン 須山悠里
印刷製本 アイワード
  監理 浦有輝(アイワード)
  製版 伊部流星(アイワード)
  進行 石橋知樹(アイワード)
表紙活版 日光堂
編集制作 丹治史彦 井上美佳(信陽堂)
ISBN978-4-910387-08-6 C0071

価格=6,050円(税込)
送料=250円

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