草日誌

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2011年8月7日

ふもとらくま市のこと

鹿児島市役所のすぐ近く、戦後のバラックの雰囲気を残す一画に「レトロフト」はあります。古い5階建ての雑居ビルで2階にギャラリースペースとカフェ、上部階にはお住まいの方もいます。繁華街の天文館からは少しだけ離れた立地といい具合に古びた雰囲気。いいですね。そこが「ふもとらくま市」の会場でした。

「ふもとらくま市」は、それぞれ離れたところに住み、ちがう職業を持つ本好き3人が鹿児島に集まって開いた「本の市」です。
屋久島の「麓書店」、
鹿児島の「本屋の寅さん」、
東京の編集者(通称くま)で
「ふもとらくま」です。

鹿児島、屋久島の本好きたちとのご縁は、なかなかに不思議です。仕事でかなりの頻度で屋久島を訪ね、その延長線上で数ヶ月住むことになった2009年、鹿児島在住のデザイナー花田理絵子さんと屋久島で学校図書館の司書をしている大垣裕美さんと相次いで出会い、あっという間に仲良く行き来するようになりました(詳しいいきさつはこちらをクリック)。ともに過ごした時間はまだ短いけれど、実際以上にたくさん一緒に笑ったり泣いたりしてきたような……仲間です。何よりふたりの前では素のままでいろいろなことが話せます。人生の半ばを過ぎて新しく出会った人とこんなに親しくできるなんて、思ってもみませんでした。
そのふたりと信陽堂井上(くま)が、何かごそごそと企んでいると思ったら、鹿児島で本のイベントを開くことになったと言います。今年の5月のことでした。そこからは鹿児島の行動派の花田さんがトントン拍子に事を進めてくれて、そしていよいよ当日を迎えました。

屋久島の大切な友人たち、一湊珈琲焙煎所の高田夫妻と愛息のソウタ、リンナベーカリーさんも、台風をかいくぐって屋久島から参加してくれました。花田さんが声をかけてくれたのは古書リゼットさんと「蓄音機の人」後藤さん。オープン15分前。まだまだ余裕です。みんないい顔してます。


麓書店は、長く読んでもらいたい絵本を、一冊一冊にコメントをつけて丁寧に紹介していました(コメントが書かれたカードは、なんとディック・ブルーナさんのイラストです! どうして麓書店がこの絵を使っているのか、すごいエピソードがあるのですが、長くなるのでまた今度)。

本屋の寅さんは、アノニマ・スタジオ、農文協、ラトルズなどのいい本だけを厳選して。陳列のしかたはさすが「移動本や」の猛者、ツボをぐんぐん突いてきます。

くま書店は、オススメの本、自分たちが編集した本など。結果、あまりにばらばらでおかしな品揃えになってしまいましたが、これも信陽堂の真実。

どこよりも本のラインナップに魂がこもっていた(!)のが一湊珈琲焙煎所。没後10年となった山尾三省さんの本を中心に、貴重な本が並びます。CDも魅力的でついつい4枚も購入してしまいました。「部族」2号も展示されていました。まるで旗印のようです。

そのお隣はリンナベーカリーさん。おいしいパンがイチオシのお店ですが、今回は遠征なので焼き菓子で参加です。もちろん、とびきりおいしい。お客さまをコーヒーに導いてくれました。(前日ZOOLさんでひとめ惚れだったというdosaの藍色のワンピース、とても似合っていてすてきでしたよ)

古書リゼットさんは、古本好きの間では全国区で知られた名店。今回もコンパクトなスペースに粒ぞろいの音楽書と絵本を詰め込んだラインナップでした。もっと見たかった。

蓄音機の人・後藤さんは、寒い日曜日、公園で一人蓄音機を鳴らしていたところをレトロフトの大家さんにスカウトされたそうです。それだけで充分変わっていますが、どうやら「ハープ」奏者でもあるそうで、いまはグランドハープ(ペダル式の大型のもの)を狙っているそうです。
はじめて聴く蓄音機の音は、それ自体がひとつの楽器だと思えるような豊かな音でした。古い音源がレトロフトの空間にもとても良く響き、さらにゼンマイ仕掛けの蓄音機はブレーカーが飛んだ2回ほどの停電にもまったく動じず、涼しい顔で音楽を流し続けました。どこまでかっこいいんだ。

信陽堂喫茶室はこんな具合のセット。今回は一湊珈琲焙煎所と、徳島のアアルトコーヒーさんに豆を分けていただきました。35ドリップ、56杯のコーヒー。おつきあいありがとうございました。

11時のオープンの前から熱心に本を見てくださる方がいらして、気がつけば17時のクローズまで途切れることなくずっとお客さまがいらっしゃる幸せな時間。途中で交代でランチを、なんて甘い考えは嬉しい誤算ではじけ飛び、終わってみたらスタッフ全員お腹ぺこぺこのどはからからでした。
打ち上げはすぐご近所の「デジャヴ」さん。カウンターの中には先ほどたくさん本を買ってくださったお母さんがニコニコ出迎えてくれました。乾杯のあとはお母さん特製の大皿料理の数々。
途中で耳をすますと、カウンターで谷川俊太郎さんの「どきん」(さっきリゼットさんでご購入)を声に出して読んでコロコロ笑うお母さんの声が階段から昇ってきます。最後まで本の気配に満たされた、楽しくおいしい一日でした。
本をはさんで、本が好きな人と話をするのは、ちょっと麻薬的な楽しさがありますね。二回目も開催したいなあ、とすでに味をしめている「ふもとらくま」(特にくま)です。

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