草日誌

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2021年6月22日

渡し舟さんの本
『からむしを績む』のこと

〈からむし〉とは、苧麻(ちょま)とも呼ばれるイラクサ科の多年草。
その繊維を細く裂き、より合わせて糸を作る工程を「績む」といいます。

からむしは全国に分布し、布の原料として広く用いられてきた歴史があります。
昭和村のからむしは質がよく「越後上布、小千谷縮」の技術を支えてきましたが、
いまも文化として栽培、生産を継承しているのは福島県の昭和村のみとなりました。

奥会津と呼ばれる地域に位置する昭和村は、幾重にも連なる山なみを越えてようやく辿りつける場所。
冬は雪深く、山から流れ出る豊かな水が縦横に村をめぐり、朝には濃い霧が谷をおおいます。

この本は、昭和村で現在も連綿と続く〈からむし〉の栽培から繊維を取りだし布に織り上げるまでの「いとなみの気配」を、写真と文章を手がかりに本に形を変えて定着させようとする試みです。
本藍染された「からむし布」にくるまれた特装版80部と普及版420部が制作されました。



上:特装版 下:普及版(ここまで3点 写真=木村幸央)


企画は〈渡し舟〉の屋号で〈からむし〉のいとなみを核に昭和村の魅力を紹介する活動をしている渡辺悦子さんと舟木由貴子さんのお二人です。
お二人と信陽堂をつないでくださったのは、哲学者の鞍田崇さん。数年前に東京で行われた渡し舟のワークショップにお誘いいただいたのがご縁でした。

撮影を担当したのは、写真家の田村尚子さんです。
数年の間にのべ数十日も昭和村に滞在し、村の人々との交流を重ね、土地を潤す水の流れを追い、からむしの繊維に分け入るようにその気配を探り、季節を越えて美しい写真を撮っていただきました。
鞍田崇さんのテキストは、村で「姉さま」と慕われるからむしの織り手たちの言葉と、『マルテの手記』(リルケ)のテキストをポリフォニックに行き来しながら、人のいとなみの中にある普遍的な美しさと強靱さを描いています。
写真とテキストと、さらに特装版では実際の「からむしの布」を「本という器」に盛り込むという難題を、これ以上ない形でデザインして下さったのは、漆原悠一さん。
本文の印刷はアイワードさん。田村尚子さんの写真のもつ湿度や温度まで印刷で表現しています。
表紙の力強い活版印刷は『愉快のしるし』『三春タイムズ』に続いて今回も日光堂さんにお世話になりました。文字と地紋の銀は、実は微妙に輝度がことなる銀で刷り分けています。
繊細な製本は博勝堂さんに担当いただきました。サンプルから何度も繰り返した試作がこの形を可能にしました。
私たち信陽堂は2018年夏にこの企画についてご相談いただき、数回昭和村を訪ね、編集に携わることになりました。

コロナ禍の2021年4月25日(日)〜5月12日(水)まで、
昭和村・旧喰丸小学校の図書室にて、完成記念の展示会が催されました。
その様子はfacebookinstagramにてご覧いただけます。

『からむしを績む』発売記念巡回展は、このあと
かみ添(京都)7月23日(金)〜27日(火)
10cm(松本)11月3日(水)〜7日(日)
で行われます。
ぜひ『からむしを績む』を手にとってご覧下さい。

『からむしを績む』は基本的には上記の「発売記念展」の会場でのみの販売となっていますが、〈渡し舟〉さんのご厚意により、普及版をこのサイトからもご購入いただけることになりました。

直接のご購入は>こちら<からどうぞ。

『からむしを績む』
渡し舟(渡辺悦子・舟木由貴子)編著

文 : 鞍田崇
写真: 田村尚子(vutter kohen)
デザイン:漆原悠一(tento)
校正: 猪熊良子
プリンティングディレクション:浦有輝(アイワード)
編集: 信陽堂編集室(丹治史彦・井上美佳)
印刷: アイワード日光堂
製本: 博勝堂
仕様: A5変形判(200×140ミリ)コデックス+スイス装 112ページ
発行: 渡し舟
特装版:限定 80 部(33,000円/税込)
普及版:限定 420 部(3,800円/税込)

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