草日誌

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2012年12月29日

年末、新潟に向かう

新潟に向かう車中で「HUGE」の本屋さん特集号を再読しています。我らが北書店・佐藤さんがフィーチャーされた記事はもちろんいい記事ですが、ほかのどの記事にも書店さんへの共感と業界への危機感と物質としての本への信頼感が詰まっていて、読んでいるこちらが元気づけられます。だから、一度読んだ雑誌をわざわざ新幹線にまで持ち込んで読み直している。
街の本屋さんの存在意義を「本について語り合える場所」であれ、と往来堂の笈入さんが書いている。お父さまの本屋さんを継いだ二代目書店主の思いをアルトスの西村さんが「止められない」と書いている。キューブリックの大井さんは「みんなに本を読んでもらいたい、文学者や詩人になるためにではなく、もうだれも奴隷にならないように」というロダーリの言葉を引いている。イハラ・ハートショップの井原さんは本屋さんに積み重なる地層のような時間について書いている。下北沢のピリカタント書店も、地元のほうろうも信天翁も紹介されている。
いいなあ。それぞれが、店の規模はけっして大きくはないけれど、地元になくてはならない場所として必要とされている本屋さんだ(ピリカタントははじまったばかりだけれど、すでに「ごはんの食べられる本屋」として常連のこころと胃袋を掴んでいる様子です)。

そして、そんな本屋さんたちのあり方を考えながら、なかば自動的に思考は新潟のエフスタイルのあり方にスライドしていく。
地元の人たちの力を借りながら、力を活かす。それで、小さくても確かな経済がまわっていく。人がつながっていく。そこから思いが広がり、人と仕事が育っていく。そういう循環を、エフスタイルのふたりは大学を出たばかりのころから、一貫して見つめ形にしてきた。彼女たちにはじめてあったのが2004年で、今年設立10周年を迎えたから、ほんとうに最初期からその姿勢は変わっていない。ぼくにとって、彼女たちのあり方、考え方は衝撃であり、謎だったのだ。いったいどんな確信があって、ふたりはこの道を進むのか。少なくても9年前には、ふたりの行く先に道を見ていたひとは本当に少なかったと思う。
今回新潟を訪ねるのは、彼女たちの新しいオフィスとショールームを訪ねるためだ。
10年たって、小さな棟割りの二階家のオフィスから大きな倉庫物件へ移ったふたり。いつだってたったふたりきりで活動しているエフスタイルにとって、大きすぎる倉庫への移転は経済的にも大きな負担だったろうし、精神的にもかなりのジャンプが必要だったことと思う。仕事の仕方を根本から考え直しながら、ふたりのあり方はかえないというアクロバティックな移転。スペースの拡大というような横滑りの引越ではなく、たぶん、これから20年30年というスパンの中での自分たちの役割を考えての移転だったのだろう。それはもしかすると、「作り手の力を借りて、活かす」というあり方から、「作り手を作り育てる」ところまで視野に入れてのことかもしれない。それほどに、エフスタイルが関わる地場産業や職人たちは世代交代のまっただ中にあり、その交代は多くの場合そのまま廃業につながりかねないような状態なのだ。
エフスタイルは、きっと地元でもの作り、それを生活者に伝えるという仕事を、さらに一歩進めたのだと思う。まだだれも足を踏み入れたことのないような、深く温かな場所へ。
あと30分ほどで新潟に到着する。
真新しいエフスタイルの拠点は、いったいどんな場所なのだろうか。
ああ、楽しみです。
(写真は2012年6月、改装される前の状態です)

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