草日誌

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2012年12月31日

エフスタイルの新しい場所

エフスタイルの新ショールーム。
靴のnakamuraの展示会は明日まで開催中です。
きれいな光が射す会場には、nakamuraさんのフルラインナップがずらり。
皆さんもちろん靴を見てらっしゃいますが、nakamuraのバッグもとても素敵です。
写真の右端に写っているものは、ぼくもずいぶん愛用しました。

展示会2日目の今日もお客さまが途切れることなく、ひとりひとりフィッティングする中村夫妻はいったい何人の方の靴を合わせたのでしょう。
お客さまも作り手も、互いに顔を見ながら直接感触を確かめ合う安心感。
今回受注した分の仕上がりは来年の4月半ばの予定だそうです。
「ちょうど温かくなるころですね。よ〜し、これで冬の間の楽しみが出来たぞ〜!」
と言って帰っていった男性の後ろ姿。
ワクワクして、少し地面から足が浮いていたように見えました。
明日も一日ここにいて、少し離れた場所から幸せなやりとりを感じていようと思います。

新潟にいたのは29日の朝から30日の夜までだけなのに、上野に降り立った瞬間に「遠いところに、長いこといっていた」感覚に襲われました。
コンコースをゆく人の流れが速い。
音と匂いが混ざり合った圧力の高い空気。
たった2時間前まで自分がいた場所は、どこだったのだろう。

エフスタイルの新ショールームですごした二日間の、その時間の濃さを思いました。人はたくさんいるけれど、そこにあるのは喧噪ではなくて、たとえて言えばいのちの気配が濃い森の音。
風が梢を揺らす音、自分の吐く息、靴が小枝を踏む音、吸う息、落ち葉の下を小さな虫が歩く音、鳥のさえずり、木々が成長する音、どこかで水が流れる音、衣擦れ、そんな音が、いろいろなところから聞こえてくる。その中に身を置く心地よさ。
誰もあわてず、大声を出さず、モノを鏡に静かに自分と対話するような時間でした。
エフスタイルの新ショールームは、そういう場所でした。

nakamura さんの展示会は3日間ともに大盛況でした。
たくさんの人が靴を試し、中村夫妻と話をして、そして注文していきました。
けっして安くはない(けれど、質を考えればとても良心的な)値段の靴を、3日間でこれだけの人が求めていく。新ショールームのオープン企画ですから、お付き合いで来て下さった人も多かったと思います。けれど、お付き合いで買える値段ではありません。デザインだって登山靴出身の中村さんたちが作る靴は、どちらかというと線が太い印象のものですから、人を選ぶにちがいない。
今回注文された人の中には、ほんとうに「お付き合い」で見に来ただけの人もいたと思います。でも、中村夫妻のフィッティングの様子を見ていて、自分も靴を選んでもらいたくなった。左右の足の大きさ、厚さ、靴の中での指の様子、歩き方や体格などなど、その人と話しながらそのデザインの中で一番ふさわしい形・サイズを選んでいく。左右の大きさが違えば、サイズ違いに作ることもできる。市販の靴ではなかなかそうはいきません。その様子を見ていて、気持ちが動いたにちがいありません。「履きにくい靴に慣れる」ことが靴とのつきあい方だと思っている人も多いと思います。ぼくも2005年にnakamuraに出会うまでは、そう思っていました。でもそれ以降、いまや長靴以外はすべてnakamuraの靴になってしまいました。ごく軽くですが不具合がある家族の足も中村さんがいろいろと工夫して下さるお陰で、とても快適です。
nakamura さんの靴の、デザイン的な魅力はもちろんあります。でも、今回新潟でnakamuraの靴に出会った人たちは、人との対話の中からものを選び、身につけることの安心とよろこびを知ったのではないかと思います。靴と一緒に、これから数ヶ月かけて自分の靴が作られる、そのできあがりを待つ時間と、新しい靴がまぎれもない自分の足の一部になっていく時間の、ふたつの時間も買われたのだと思います。

ものが作られるには、それ相応の時間が必要です。
時間がかかれば、それ相応の値段にもなります。
靴を作って、履く。
この三日間にnakamuraの靴に出会い、それ以上のことにこころをときめかせた人がいたとしたら、それはエフスタイルがこれまで新潟という街で耕し続けてきたことの結果でもあると思います。

エフスタイル
nakamura

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