草日誌

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2013年6月12日

エフスタイルとの出会いのこと

新潟の人たちとのつながりは、エフスタイルのふたり、五十嵐恵美さんと星野若菜さんとの出会いからはじまっています。
2005年4月、永井宏さんの『モンフィーユ』発売記念のイベントを全国数カ所でおこなった際の新潟での会場がエフスタイルの学校町時代のショールームでした。
正直それまで、エフスタイルが何ものなのかほとんど予備知識がなく(永井さんから事前に聞いてはいたのですが、まったく要領を得ず。その説明しにくい理由も今ではわかりますが)、はじめてお邪魔したエフスタイルで、巨大が岩石が頭頂部に落ちてきたような衝撃を感じました。
古い棟割長屋のショールームの、そこかしこにある細部の美しさ。
茶の湯的なものとはまた違った、削ぎ取っていく力強さ、潔さ。
そして、当時まだアイテム数は多くはありませんでしたが、彼女たちの商品の唯一無二の魅力。
言葉にすればそうなりますが、とにかくそこにあったのは〈巨大な謎〉でした。
それは〈シナ〉という木の皮の縄で編まれたバッグであり、不思議な色合いの靴下であり、犬の模様が浮き出した玄関マットであり、アイヌの文様が縫い込まれたシルクの小さな枕であり……一見バラバラな商品群の中に確かにある、ある思想、思い。これは、何だ? この人たちは何ものだ?

永井さんには申し訳ありませんが、イベントスタートを前に、僕の頭は彼女たちの〈謎〉に占領されていました。
その日僕は、シナの縄のトートを購入して帰りました。
今にして思えば、在庫がないところを展示品を無理矢理譲ってもらったように思います。しかも手持ちのお金が足りず、初対面なのに〈ツケ〉で。なんというか、もうひとめ惚れだったのです。そのシナのトートに。というか、彼女たちの存在に。どうにかしてこの人たちとのつながりを保って帰らなければ。そのくらい切羽詰まった思いでした。そして別れ際に「いつか、本を作りましょう」と言い放って東京に戻りました。
初対面の数時間、エフスタイルの仕事の内容も、商品の成り立ちも、ほとんど何も理解していません。ですが、「このふたり、ただ者じゃない」という直感だけがありました。「このふたりのまわりに、確実に面白い未来がある」という、根拠のない確信だけがありました。
そして数ヶ月後、実際にふたりと本作りの作業に入り、2008年に『エフスタイルの仕事』が完成しました。足かけ4年。取材と編集は、とても幸せな、苦悩の日々でした。
そういうきっかけで、エフスタイルに紹介されて、北書店の佐藤店長も、亀貝太治さんも、むすびやももちゃんも、マリールゥの鈴木夫妻も、『伝書鳩の手紙』の藤井さん夫妻も、Pituの康子ちゃんも、もうもう数え切れないほどの新潟の素敵な人たちと顔見知りになりました。その間に何組かカップルが結婚し、お子さんが生まれ、ひとの輪は毎回大きくなっています。
そしていま、エフスタイルとは家族同然のつきあいをさせてもらっています。
やっとここまできました。
今までは前振りです。
今朝のごはんの写真と、ワンセグで「あまちゃん」を見ている写真をここにアップしたかっただけなのです。


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