草日誌

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2012年8月28日

バームクーヘン工場

「クラブハリエ」のバームクーヘン工場を見せていただきました。
オーブン担当の方は、朝の7時から夕方までバームクーヘンを焼き続けます。
このオーブンでは約一時間かけて一度に6本を焼くことができます。担当はオーブンにつき一名。焼きはじめたら一時も気を抜けない真剣勝負です。
一本一本と対話するように、生地を塗り重ね、焼き、素早くオーブンの中に手を差し入れ、指で触れて焼き加減を確かめ、ガスを調整します。
腕のそこここに火傷のあとがありました。
オーブンの温度は300度以上にもなり、奥から熱風が吹き出し
ます。
「みんな、まつげが燃えてますからね、短いんですよ」
爽やかに笑いながらおっしゃいますが、ここは本当に過酷な現場。体調の管理も重要な仕事の一部です。
冷蔵庫には2リットルのペットボトルにそれぞれ名前を書いたスペシャルドリンクが用意されていました。
そうやって焼き上げられたバームクーヘンです。
卵を洗浄して割るところから、小麦粉や砂糖の計量、混ぜてこねて生地を作り上げるところまで、オーブンもすぐそばで職人さんたちが機械の力を借りながらも、手作業で仕上げます。
その前工程をすべて経験したうえでないと、オーブンの前には立てないとお聞きしました。つまり、季節や原料の微妙な差から生まれる生地の具合の、その理由をすべて把握しているから、臨機応変に水分と焼き色を操ることができるのでしょう。

そして、焼き上がりのバームクーヘン。
感触をあえて言葉にすれば「ふるっふる」。
「あかちゃんのほっぺたのようでしょ?」と職人さんは形容しました。
ほんとうにそうです。
触れた感覚もそうですが、それ以上に、職人さんが焼き上がりの一本を愛おしそうに扱うその手つきが、あかちゃんを抱くようでした。

焼きあがったバームクーヘンは一晩かけてゆっくりと粗熱を取られて、次の工程に進みます。
粗熱を取る間にも、重さが偏らないように何度かロールを回転させます。クラブハリエのバームクーヘンの特徴である「ふるっふる」感は、水分量がとても多く、ギリギリの焼き加減で止めてあるから。つまり、放っておくと自重で変形して、軸から落ちてしまうのだそうです。
写真のラックの上に、せんたくばさみのようなものが見えますか? これは、焼き場の担当者を示すタグです。
このあと、フォンダンと呼ばれる砂糖の衣が
塗られ、切り分けられて包装されますが、その最後の工程までこのタグで誰が焼いたものかがわかります。いわゆるトレーサビリティ。
何か不具合があった場合には、その日のうちに担当者までフィードバックされます。
「家族に食べてもらうつもりで作らな、といつもみんなで話してます。そして、自分の工程のあとを受けるのは〈お客さま〉だと思ってます」
口で言うことは簡単です。でも、この工場からは、それが口先のことではなく、関わるみんなが自然にそう思っていることが伝わってきます。
自分の仕事に誇りを持つこと。
それが人を輝かせるし、自信につながっていく。
自信を持つ人は、仕事に対する責任感も強くなる。
それが品質を高めることにもなるし、それはお客の満足にもつながっていく。
ここでは、その幸福な環がごく自然に循環してます。

原料選びから、焼き上げて包装、発送まで。
美味しいものには理由があります。
「安心」も美味しさのとても大切な要素だと、工場を見せていただきながらつくづく感じました。

まっとうに、おいしいものをつくる。
そういう人やメーカーがあることを知ることもまた、幸せです。

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