草日誌

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2026年5月31日

ソラノマド|高山なおみ 
小さなできごと

| 小さなできごと |
 
 よく晴れた朝、寝室を掃除していたら、すぐ近くで小鳥の声がしました。電線にとまっているのは雀くらいの大きさの、黒い頭に白い頬、白いお腹に黒いネクタイ……

 あ、シジュウカラだ。

 チュピチュピピチュピチュ、可愛らしい声だなあと思いながら、私はいつものようにパジャマをたたんだり、ベッドのシーツを直したり。何とはなしに窓の前を通ったとき、こちらに向かってまっすぐに、シジュウカラがさえずりながら飛んできました。部屋に飛び込みそうな勢いで。それで、ようやく私は外に首を出してみたのです。
 
 シジュウカラを目で追うと、隣りのマンションのすりガラス越しに、バタバタと飛びまわっている別の小鳥の影が見えました。きっと、通路に閉じ込められてしまったんだ! ツガイなのかもしれない。

 私はとっさにスカーフをつかみ、助けにいきました。そのマンションの3階には大家さんが住んでいるから、何かあれば声をかけられます。

 階段を駆け上がると、ガラスにぶつかりそうになりながら、必死に出口を探しているシジュウカラ。窓の外では、さっきのシジュウカラが羽ばたいているのが見えます。

 窓を開けようにも鍵が堅くて開かないし、スカーフでつかまえようとしても、かえって怯えさせてしまい、逃げ惑うばかり。そうこうするうちに、大家さんの玄関先に積み重ねてある荷物の陰に隠れ、見えなくなってしまいました。

 困り果てた私は、呼び鈴を鳴らしました。

 顔を出した大家さんは、「古いマンションだから、鍵が壊れているんですよ」と、苦笑い。「ときどきこんなふうに、1階の入り口から間違えて迷い込んでくるんです。ガラスにぶつかって死んでしまう鳥もいます」。

 私は、屋上に続くドアの鍵を開けてくれるようお願いし、階段を下りました。

 外に出て見上げると、私を呼んだシジュウカラはもうどこにもいませんでした。きっと相方は、ぶじに脱出できたのでしょう。なんだかあっけなく、さっきのことはみんな幻だったようにも思えてきます。けれどあのシジュウカラは、確かに「助けてくれ」と鳴いていたのです。

 小鳥のことばは分からないし、ましてや心を通わせたなんて、そんなおこがましいことを言いたいわけではありません。けれど、いつも澄んだ声を聞かせてもらうだけだった小さな生き物と、ほんのひとときだけ、目と目を合わせたような、そんな静かなできごとでした。
 

 
 
 
 
〈 了 〉
 

 
文・写真 高山なおみ
 
 
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