草日誌

草日誌

2017年12月26日

本とは、人のいとなみが残した影

アノニマ・スタジオを作ったのは、
出会った人たちの魅力を伝える方法が
本しかないことに息苦しくなったから。
(正確に言うと、自分が持っている方法が「本を作る」しかないことに息苦しくなったから)

一度に体験できるのは十数人かもしれないけれど、その人の言葉や姿に直接触れてもらえばいい。
ワークショップ、教室、呼び方はなんでもいい。
その人がそのままメディアになって成立することがあるとの確信があった。
本はそのレポートでいい。
アノニマ・スタジオのビジョンはそこからはじまった。

最初に人がいる。
その人のいとなみがある。
本はそのいとなみが残した影。
本をつくることとは、
どこまでいっても
人のいとなみへの敬意でしかありえないと思う。
アノニマ・スタジオという器は、
そのためだけに作ったと思っています。

人が暮らしはじめてから、
これまでこの星の上で、
食事を作る火が途絶えたことは
一瞬だってありません。
いつだって地球のどこかで、
誰かが自分のために、
誰かのために、
火をおこしごはんを作っていた。
そのこと。
畢竟私は、
人のいとなみが愛おしくて仕方ないのだと思います。

今日、今年最後の近江。
西の湖の畔で暮らす人たちに
たくさんのお話をうかがいました。
その場所に代々暮らしてきた人たちの、
からだにしみ込んだもの、
土地との繋がり、愛着、無頓着。
そんなお話の背景に射す美しい光。

この場所に通いはじめて6年が経ちました。
ご縁に導かれてこの土地に出会い、
土と水と火と風に導かれて人に出会ってきた。
自己撞着のように聞こえるかもしれませんが、
ものごとはこの言葉の通りでした。

身土不二。
この土地の人たちはこの土地とひとつながりです。
人と土地は布目の縦糸横糸のように重なり合い、互いに互いを求め、引き合い、託し合い、次第に境目も見えなくなるほどに撚りあっていく。それは驚くほどに。
人は生まれ育った場所との関わりを切って生きることなどできない。そんな当たり前のことを教わり、考え続けた日々でした。

ありがたい。
ありがたい。
ありがとう。

Facebook Twitter google+ はてなブックマーク LINE
← 前の記事民族文化映像研究所
『奥会津の木地師』上映会
次の記事 →鶴の歌う声

関連記事