草日誌

草日誌

2026年8月25日

辻山良雄さんと 
『本とねこと青い自転車』のこと

それまでずっと忘れていたが、
世界はいつでも
はじめて触れるものにあふれている。
日常の埃が堆積し、
開かなくなっていた扉がすこしだけ開いて、
そのあいだから光が差しこんできた。
(「ねこのひかり」より)

神戸で育った少年のころ、
大学時代に過ごした早稲田近辺のこと、
人生で出会ったさまざまな本、そして猫たち。
薄明の日々のなかで光を拾いあつめるように書かれた、本屋Title店主の最新随筆集。

たっぷり収録された坂本千明さんの静謐なイラストが文章と響き合います。

本の傍にいるときが
いちばんわたしらしくいられる時間で、
それが働く上では何より大切なことだと、
あとになってから気がついた。

辻山さんが荻窪にTitleという本屋を開店したのは2016年1月のこと。
個人で新刊書店をはじめるのがまだまだ耳目に新しい時期のこと、前職が大手書店リブロの旗艦店である池袋店の閉店を看取ったマネージャーであり、その閉店の経緯も含め業界の周辺ではいやでも注目が集まる開店でした。
開店当日は地方に出張に出ておりうかがえなかったものの、数日経って訪問した辻山さんのお店は、何というか、辻山さんのお店であり、「ああ、こういうことか」と独りごちたのを覚えています。店の規模、木製の棚とそこに並んだ本、狭い帳場、店の奥にあるカフェ、狭くて急な階段を上った先にあるギャラリー、その佇まいのすべてが辻山良雄という人そのものに思えたのです。

その後、辻山さんは2017年に自身の本屋開業の顚末をまとめた『本屋、はじめました』(苦楽堂)を出版したのを皮切りに、『365日のほん』(河出書房新社、2017年)、『ことばの生まれる景色』(ナナロク社、2019年)、『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』(幻冬舎、2021年)、『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』(朝日出版社、2024年)と著作も重ねました。新聞や雑誌での書評などの執筆も多く、その文章に触れるたびに辻山さんという人がそこにいる感覚がありました。
本屋と文章、どちらに触れても辻山良雄という人がそこにいると感じられる。それは当たり前のようでいて、じつはなかなかないことでは、と思います。

辻山さんは、誠実で生真面目で、背が高くて、声が深くて、手が分厚くて、そして、どこかおかしみがある。文章にもお店にもそのような辻山さんらしさが絶妙のバランスでしみ込んでいて、私はその様子が理由もなく好きなのです。
それは、触れたものが静かに自分自身に向き合うことを許す落ち着きであり、その時間の中で思いがけず出会った、例えば過去の過ちや取り返しのつかない出来事も自分に許せてしまうような懐の深さであり、人が本屋さんにもとめるもの、読書という行為にもとめるもののある種の理想のように思えます。
そんなですから、「辻山さん、本を作りませんか?」と私が声をかけるのは、ごく自然な成り行きでした。
(辻山さんとの付き合いはじつは結構長いのですが、そのことはまた別の機会に)

この本は、辻山さんがさまざまな媒体に書かれた文章から編まれています。
ねこたちについての文章、神戸についての文章は、ぜひもっと読みたいとおねだりして新たに数篇書いていただきました。
本屋として独立してから10年、辻山良雄さんの新しい随筆集をぜひお読みください。

装画、挿画は、辻山さんとも交流の深い紙版画作家の坂本千明さんにすべて描き下ろしていただきました。坂本さんの絵の中にも、先に書いた生真面目さとおかしみを感じていただけると思います。

本のテーマカラーは「サックスブルー」という色です。これは「本屋Title」の看板の色でもあり、辻山さんが思い入れをお持ちの色でした。
表紙は少し「汚し」を入れてくすんだ色調に、開いた見開きは純正のサックスブルー、続く目次から少し彩度を下げて本文へクールダウンしてモノクロの須磨の海岸へと続くイメージです。

どうぞお手にとってお読みください。

目次より

#1
たんていの地図 
手製の『モチモチの木』 
二軒の本屋
わたしの修業時代 
「芝生を刈ること」について
カルチベイトする/される
ノーウェア・マン
空腹は最高のスパイス
贈ったり贈られたり
山笑う

#2
小さな声でうたう歌
偏屈さと愛情と
いまもどこかの本屋で
不死鳥のような本について
一本の木
〈わたし〉という奇跡

#3
ねこのひかり
たびとてんてん
すずとあずき
ニューヨークのブックワーム
千駄ヶ谷・表参道あたり
歩き、歩いて
ひねもすのたり
わたしの神戸案内
家を売る
長い夜
てんてん、帰ってくる
青い自転車

【編者紹介】
辻山良雄(つじやま・よしお)
本屋Title店主。兵庫県神戸市生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月東京・荻窪に新刊書店とカフェとギャラリーの店「本屋Title」を開く。書評やエッセイなどの執筆、ブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、『しぶとい十人の本屋』(朝日出版社)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

  
『本とねこと青い自転車』
辻山良雄 | 装画・装画 坂本千明
四六変形判 上製(173×130ミリ)208ページ

編集+造本 丹治史彦、井上美佳(信陽堂編集室)
校正 猪熊良子

印刷 モリモト印刷
活版印刷 日光堂
製本 ナショナル製本協同組合
ISBN978-4-910387-14-7 C0095

価格=2,200円(税込)
送料=250円

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